【緊急特集】 「テレワーク需要」は新型コロナで疲弊するホテル業界の救世主か?東京都が宿泊施設と利用企業をマッチング 東京都新宿区

2020.04.27
東京都は4月24日、「STAY HOME週間」の取り組みの一環として、住居地付近でテレワークの場を提供する宿泊施設と、その利用を希望する都内事業者をマッチングし、都心等勤務地への移動を減らすとともに、宿泊施設の利用拡大を図る取り組みを開始すると発表した。

テレワークの場を提供する宿泊施設と、自宅でテレワークを行うことが難しい社員などのテレワークの場を確保したい企業を募集し、それぞれの情報を把握してマッチングすることで、都内事業者におけるテレワークを促進する。

募集対象は、テレワークの場としての活用を希望する都内宿泊施設(参加宿泊施設は後日開設予定のウェブサイトで公開)と、社員のテレワークの場として宿泊施設を活用したい都内事業者。
募集開始日は4月27日より。

津山 (アルファーワン) (4)

首都圏を「分割」すれば「人と人との接触機会8割削減」は可能

政府が新型コロナウイルス対策で掲げている目標「人と人との接触機会8割削減」。

その「達成」がなかなか実現に至らない中、注目を集めているのが、国立情報学研究所とキヤノングローバル戦略研究所が4月14日に発表した「人流ビッグデータによるCOVID-19の拡散制御 -自粛による封じ込め-」だ。

同論文の主旨は、出勤を会社から2.5km範囲内の社員に限定することで、人の流れを平時の2割に減少させ、また、首都圏を相互に物理的な移動が生じない186地域に分割することができる、というもの。
「一般読者を意識して書いており、一部で学術的な厳密性が担保されておりません。」という注意書きはあるが、人の流入出のない複数の地域を作ることで、ウイルスの封じ込めや拡散制御が容易になり、経済をまわす安全地帯の構築が期待できるとしている。

今回、東京都が発表した同取り組みは、「住居地付近」「都心等勤務地への移動を減らす」というキーワードからも、上記論文に符合する部分が多い。
一歩踏み込んだ言い方をすれば、「相互に物理的な移動が生じない、分割された首都圏の地域」内のみの移動であれば、自宅とテレワークの場となる宿泊施設の移動は「許容」されることになる。

既に多くの人が指摘しているとおり、自宅でのテレワークには、情報インフラの未整備や家庭不和など、課題も多い。
WiFiなどの環境が整備された「個室」を提供できるビジネスホテルに対しては、こうした課題を抱えるテレワーク層による「需要」があるはずだ。

もちろん、その場を提供するホテル側も、徹底した除菌や、可能な限り三密を避けるオペレーションに注力する必要はあるが、「テレワーク受入れ施設」は「軽症患者受入れ施設」に続く救世主となる可能性がある。

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既に始まっていた、テレワーク需要を取り込む動き

一方、ホテル業界(とくにシングル主体の宿泊特化型のビジネスホテルチェーン)でも、東京都が同取り組みを発表する以前から、新型コロナ問題を鑑み、こうしたテレワーク需要を取り込む動きを見せていた。

例えば、当ニュースサイトが4月22日に掲載したPR記事だけでも、以下の3つがある。

【PR記事】 横浜桜木町ワシントンホテル、「テレワーク全力応援!12時間STAYプラン」を1室5,000円で6月30日まで販売 神奈川県横浜市

【PR記事】 マイステイズ・ホテル・グループ、全国76ホテルで日帰りと連泊のテレワーク応援プランを提供 東京都港区

【PR記事】 スーパーホテル、東京・大阪などの対象ホテルでテレワークに対応する日帰り・連泊プランを販売、電車移動を無くし、従業員の感染予防対策に 大阪府大阪市

これらのプランは、主に個人で予約が可能な日帰り・デイユースによるものだが、宿泊を伴う連泊プランや、法人によるまとまった室数・日数の「借り上げ」に近い利用も想定している。

もっとも、テレワーク向けの日帰り・デイユースというだけなら、新型コロナ問題以前から、いわゆる「働き方改革」などの動きを捉える形で、既に多くのホテルが同様のプランを販売してきた。
上述のスーパーホテルも、全てのホテルではないが、ホテルごとに独自のテレワーク向け日帰り・デイユースプランを販売しており、中には1時間1,000円(税込)~という、破格のプランを設定しているホテルもある。

日本のホテル業界では、つい昨年あたりまで、インバウンド需要の拡大に伴い、3~4人用のグループ・ファミリー向け客室の不足が叫ばれていた。
それでも画一的なシングルルーム主体のホテルを「量産」し続けているビジネスホテル業界には、こうしたインバウンド需要に応えていない、という批判もあったという。
しかし、「軽症患者受入れ施設」に続き、「テレワーク受入れ施設」という需要に対しては、逆に「大量の個室シングルルーム」を抱えているというその構造が、大きな威力を発揮することになる。

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豊島区と練馬区では、ホテルの「密度」に35倍の格差

ただ、「相互に物理的な移動が生じない、分割された首都圏の地域」という観点で見た場合、ホテルでのテレワークには課題も多い。
まず問題となるのは、ホテル自体の「極端な地域的偏在」だ。

東京都が言う「住居地付近」や、国立情報学研究所・キヤノングローバル戦略研究所が言う「首都圏を相互に物理的な移動が生じない186地域に分割」はさておき、分かり易い単位「市区町村」で見た場合、例えばターミナル駅「池袋」を擁する豊島区は、ホテルの数が21件・客室数4,691室であるのに対し、隣接する練馬区はわずかに4件・340室だ(出所:平成28年3月31日現在、東京都福祉・衛生統計年報、「旅館」「簡易宿所」「下宿」は含まない)。
人口は豊島区が28万9,776人、練馬区は74万1,588人(出所:何れも令和2年4月1日現在、住民基本台帳)だから、単純計算すれば、人口1万人あたりの室数は豊島区が161.88室であるのに対し、練馬区は4.58室となり、その差は35倍以上にもなる。

増して、23区内では都心からの距離が遠く、ベッドタウンの性格が強い練馬区は、テレワーク需要もより多くなるはずだ。
新型コロナ対策⇒テレワーク促進⇒ホテルの活用という文脈からすれば、必要とされている地域ほど、その数が圧倒的に足りていないということになる。

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ホテルでのテレワークを、利用する側と提供する側の課題

さらに、ホテルを活用したテレワーク、という新たな業務のスタイルを遂行するにあたっても、クリアすべき課題はある。
例えば、誰がその費用を負担するのか、という課題だ。

社員・従業員用に事業者が「借り上げる」という形であれば分かり易いが、社員が「個人」でこれを利用する場合、どこまでが経費として認められるのか、あるいは一部の企業が支給しているという「テレワーク手当」のようなものでどこまで個人が負担できるのか。
通勤手当との絡みもあり、テレワークにかかる通信費などは個人持ちという例もあるという。

一方、ホテル側にとっても、テレワーク向けのプランがどこまで「採算性」のある商品なのか、見定める必要がある。
例えば、短時間の日帰り・デイユースであっても、客室内のユニットバスなどが利用可能な場合もあるため、清掃・除菌といった作業は、基本的には宿泊の場合と大差無い。
その作業時間も、通常の宿泊であれば、例えばチェックアウト後の10時から次のチェックインが始まる15時までの、ある程度定まった時間に集中的に行うことが可能だが、同じ人員でどこまで日帰り・デイユースに対応できるのか。

現況、新型コロナの影響で宿泊が「ガラ空き」だからこそ対応可能という話もあり、「一時しのぎ」という側面も否定できないだろう。

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そもそも、分割された地域内のホテルは「STAY HOME」の
「HOME」なのか

 
最後に、「そもそも論」になるが、「相互に物理的な移動が生じない、分割された首都圏の地域」内のみの移動であれば、自宅とテレワークの場となる宿泊施設の移動が、本当に「許容」されるのか、という問題である。

確かに、都心などへの通勤が抑えられることで、計算上は「人と人との接触機会8割削減」は実現できるかも知れない。
しかし、自粛要請後、都心の繁華街では人出が減る一方、地域内のスーパーや商店街では逆に三密化が進んでしまった、という実態も明らかになってきた。

「STAY HOME」の「HOME」に、地域内の「テレワーク向けホテル」が含まれるか否かは、実際のところ、かなりグレーだ。

ただ、こうした「地域分割」による効果が一定程度、明らかになれば、ホテルでのテレワークは、「一時しのぎ」ではなく、「常設商品」として新たな市場を切り開く可能性を秘めている。

新型コロナ問題の長期化により、宿泊需要の大幅な減少が続く中、ビジネスホテル業界にとって、今後数か月は、こうした新たな「常設商品」構築へ向けた正念場と言えるだろう。